「損益分岐点」は、売上高と費用がちょうど釣り合い、利益がゼロになる水準を指す。食品ECの現場でよく使われる「損益分岐ROAS」は広告費だけを見た指標だが、こちらは原価・送料・モール手数料・人件費まで含めた事業全体の採算ラインを示す。結論から言えば、食品ECは原価率が高くモール手数料もかかるため、限界利益率が低く出やすく、一般的な物販ECよりも損益分岐点の売上高が高止まりしやすい。
損益分岐点とは|計算式
損益分岐点売上高は、次の式で求められる。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
限界利益率(%)=(売上高-変動費)÷ 売上高 × 100
限界利益率は「1個(1注文)売れるごとに固定費の回収へ回せる利益の割合」を意味する。この率が低いほど、固定費を回収するのに必要な売上高は大きくなる。
食品ECの固定費・変動費の内訳
食品ECでは、費用を固定費・変動費に分解する際に迷いやすい項目が多い。目安は以下のとおり。
| 区分 | 食品ECでの主な費目 |
|---|---|
| 固定費 | 人件費、事務所・倉庫の賃料、モール利用の月額固定費、撮影・制作の外注固定費、システム利用料 |
| 変動費 | 原価(仕入・製造原価)、モール販売手数料、決済手数料、送料・梱包資材費(クール便を含む)、広告費、ポイント・クーポン原資 |
広告費を変動費に含めるか固定費に含めるかは会社によって扱いが割れる。月次で予算を固定的に使い切る運用であれば固定費、売上や在庫状況に応じて増減させる運用であれば変動費として扱うのが実態に近い【推測】。
食品ECの損益分岐点シミュレーション例
ある食品D2C店舗の例(匿名)で考える。客単価5,000円、原価率32%、モール手数料10%、決済手数料3%、送料・梱包費が1件あたり650円とすると、変動費率はおよそ58%、限界利益率は42%になる。固定費(人件費・システム利用料・広告固定枠など)を月180万円とすると、損益分岐点売上高は次のとおり。
180万円 ÷ 0.42 = 約428万円/月
客単価5,000円なら、月間856件の受注でようやく損益がゼロになる計算だ。原価率や送料設計が1〜2割変わるだけで限界利益率は大きく動くため、モールごとの手数料体系と送料設計を先に固めてから固定費の投資判断をする順番が事故を防ぐ。手数料や送料を含めた自社の損益分岐点を具体的な数字で試算したい場合は、食品EC利益シミュレーターで自社の原価率・手数料率を入れて確認できる。
損益分岐点比率と安全余裕率
実際の売上高に対して損益分岐点売上高がどの程度の割合かを示す「損益分岐点比率」も合わせて見ておきたい。
損益分岐点比率(%)= 損益分岐点売上高 ÷ 実際の売上高 × 100
この比率が低いほど経営の余裕(安全余裕率)が大きい。一般的な中小企業の目安としては70〜80%以下が健全ラインとされるが、季節性の強い食品カテゴリーはギフト・年末年始などの繁忙期に売上が偏るため、月次だけで判断すると誤りやすい。年間を通じた損益分岐点比率で見る方が実態に近い【推測】。
損益分岐ROASとの違い
広告費の目安だけを見たい場合は、損益分岐点そのものより「損益分岐ROAS」の方が実務では扱いやすい。損益分岐ROASの出し方や、食品ECで見るべきROASの水準については別記事のROASの目安は「業界平均」では決まらない|損益分岐ROASの出し方と食品ECの基準で解説している。損益分岐点(事業全体の採算ライン)と損益分岐ROAS(広告費だけの採算ライン)は別の指標であり、両方を併用することで「広告は黒字だが会社全体は赤字」といった見落としを防げる。
まとめ
損益分岐点売上高は「固定費 ÷ 限界利益率」で計算でき、食品ECでは原価・モール手数料・送料を変動費として正しく分解できるかが精度を左右する。まずは自社の固定費と変動費率を洗い出し、損益分岐点比率を年間ベースで確認するところから着手したい。モールをまたいで手数料・送料構造を横断管理したい場合は、モール横断のEC運営代行サービスもあわせて検討してほしい。
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