ROASの目安は、業界平均ではなく自社の粗利率から決めます。基準になるのは損益分岐ROAS = 1 ÷ 粗利率。粗利率30%なら約333%、40%なら250%、50%なら200%がゼロ地点です。
「ROASは300%あればいい」と言われることがありますが、粗利率20%の商品でROAS300%なら赤字です。この記事では、ROASの計算式を整理したうえで、食品ECで送料を織り込んだ現実的な基準をつくる手順を扱います。
ROASとは|計算式とROI・CPAとの違い
ROAS(Return On Advertising Spend)は、投じた広告費に対して広告経由でいくらの売上が立ったかを示す指標です。
- ROAS(%)= 広告経由の売上 ÷ 広告費 × 100
広告費10万円で売上30万円なら、ROASは300%(3.0倍)です。似た指標との違いを整理します。
| 指標 | 計算式 | 分子が見ているもの |
|---|---|---|
| ROAS | 売上 ÷ 広告費 × 100 | 売上 |
| ROI | 利益 ÷ 広告費 × 100 | 利益 |
| CPA | 広告費 ÷ 獲得件数 | 1件あたりの獲得コスト |
ROASは売上しか見ていない——ここがすべての出発点です。粗利率20%の商品でROAS300%なら、売上30万円に対する粗利は6万円。広告費10万円を引くと4万円の赤字になります。ROASの数字が高く見えても、利益が出ているとは限りません。
「業界平均のROAS」で目標を決めてはいけない理由
ROASの目安を検索すると「3.0以上」「300%が目安」といった数字が並びます。参考にはなりますが、そのまま自社の基準にするのは危険です。理由は3つあります。
- 粗利率が違う:同じROAS250%でも、粗利率50%の商品なら黒字、20%の商品なら大赤字です。
- 計測条件が違う:アトリビューション期間(クリック後何日までを広告成果とみなすか)、新規と既存の切り分け、媒体ごとの計測仕様がそろっていません。
- コスト構造が違う:食品ECは送料・クール便・梱包資材という、売価に比例しない固定費が乗ります。同じ売上でも手元に残る額がまったく違います。
損益分岐ROASの出し方
基準は一本の式で出ます。
- 損益分岐ROAS(%)= 1 ÷ 粗利率 × 100
粗利率ごとの損益分岐ROASは次のとおりです。
| 粗利率 | 損益分岐ROAS | 意味 |
|---|---|---|
| 50% | 200% | 広告費1万円に対し売上2万円で±0 |
| 40% | 250% | 広告費1万円に対し売上2.5万円で±0 |
| 30% | 約333% | 広告費1万円に対し売上3.3万円で±0 |
| 25% | 400% | 広告費1万円に対し売上4万円で±0 |
| 20% | 500% | 広告費1万円に対し売上5万円で±0 |
この数字はゼロ地点であって、目標ではありません。ここに「広告で残したい利益」を上乗せしたものが実際の目標ROASになります。粗利率30%の商品で広告経由売上の10%を利益として残したいなら、目標ROASは約333% ÷(1 − 0.10÷0.30)= 500%前後という計算になります。
食品ECは「送料込み粗利率」で計算する
ここが食品ECで最もつまずきやすいポイントです。損益分岐ROASの式に入れる粗利率は、原価だけを引いた粗利率ではなく、送料・クール便・梱包資材・モール手数料・決済手数料まで引いた後の粗利率でなければ意味がありません。
売価3,000円・原価1,200円の冷凍商品で比べます。
| 原価だけで計算 | 送料・手数料込みで計算 | |
|---|---|---|
| 売価 | 3,000円 | 3,000円 |
| 原価 | ▲1,200円 | ▲1,200円 |
| モール手数料・決済(12%) | — | ▲360円 |
| クール便送料・梱包 | — | ▲980円 |
| 粗利 | 1,800円 | 460円 |
| 粗利率 | 60% | 15.3% |
| 損益分岐ROAS | 約167% | 約653% |
同じ商品で、基準が167%と653%で4倍近く違います。左の数字を信じて「ROAS200%出ているから好調」と判断すると、実際には大赤字が進行しています。
自社の商品でこの計算をする場合は、食品EC 利益シミュレーターに原価・送料・手数料・広告費を入力すると、送料込みの粗利率と損益分岐ラインを確認できます。
モール別に見る、広告ROASの考え方
広告メニューごとに「何を買っているか」が違うため、同じROASでも評価が変わります。
楽天RPP(検索連動型・クリック課金)
検索結果の上位枠に商品を出すクリック課金型広告です。購入意欲が顕在化したユーザーに当たるため、比較的ROASは高く出やすい一方、キーワードの競合状況でCPCが上下します。楽天RPP広告の仕組みと入札設計で詳しく扱っています。
Amazonスポンサープロダクト
同じく検索連動型で、商品ページのコンバージョン率がそのまま広告効率に跳ね返ります。レビュー数・価格・配送条件が弱い状態で出稿しても、クリックだけが増えてROASは上がりません。
Yahoo!ショッピング アイテムマッチ
Yahoo!ショッピング内の検索連動型広告です。ストアポイント原資やキャンペーン倍率と合わせて、実質的な販促コスト全体で採算を見る必要があります。
TikTok Shop GMV Max
検索ではなく、動画・ライブの成果を機械学習が増幅する仕組みです。広告は「すでに売れている動画・商品」を増幅するだけで、売れない素材に予算を投じても効率は上がりません。GMV Maxとは|効く店と効かない店を分ける3条件も併せてご覧ください。
ROASが落ちたとき、最初に見る場所
ROASが下がると入札単価や予算をいじりたくなりますが、多くの場合、原因は広告設定の外側にあります。売上は次のように分解できます。
売上 = 表示回数(IMP)× CTR × CVR × 客単価
当社が食品EC店舗の運用で確認している水準は次のとおりです(2026年9月時点。カテゴリ・モール・価格帯により差があります)。
| 指標 | 標準の範囲 | 優秀 | 低いときの主な原因 |
|---|---|---|---|
| CTR(クリック率) | 2〜5% | 5%超 | 第一画像・商品名・価格の見え方 |
| CVR(転換率) | 1〜3% | 5%超 | 商品ページの説得力・レビュー・価格・クーポン設計 |
これは当社の運用実績に基づく社内基準で、公的な統計で検証された数値ではありません。自社の数値と突き合わせたうえで参考にしてください。
切り分けの順序はシンプルです。
- CTRが低いなら、広告ではなく第一画像と商品名の問題。入札を上げても悪化するだけです。楽天の商品画像サイズと第一画像の設計を参照してください。
- CVRが低いなら、商品ページとレビューの問題。ここを直さずに露出を買うと、広告費だけが増えます。
- CTRもCVRも標準内なのにROASが低いなら、ここではじめて価格設計・入札・キーワードの問題になります。
当社の運用でも、ROAS悪化の相談で最も多いのは1と2です。広告は加速装置であって、解決策ではありません。
目標ROASを決める4ステップ
- 送料込みの粗利率を出す:原価+モール手数料+決済手数料+送料+梱包資材を売価から引く。
- 損益分岐ROASを計算する:1 ÷ 粗利率 × 100。
- 残したい利益を上乗せする:広告経由売上の何%を営業利益として残すかを決め、目標ROASに変換する。
- 新規獲得分は別勘定にする:リピート率が読める商材なら、初回購入のROASを損益分岐より低く設定し、2回目以降で回収する設計も成立します。この場合は必ずリピート率の実測値を根拠にしてください。
よくある質問
ROASの目安は何%ですか?
一律の目安はありません。基準は損益分岐ROAS = 1 ÷ 粗利率 × 100 で自社ごとに計算します。粗利率30%なら約333%、40%なら250%、50%なら200%がゼロ地点で、これを上回って初めて黒字になります。
ROASとROIはどちらを見るべきですか?
日々の運用ではROAS、事業判断ではROIを見ます。ROASは売上ベースなので媒体管理画面でそのまま確認でき運用しやすい一方、利益が出ているかは判断できません。損益分岐ROASを事前に計算しておけば、ROASを見るだけで黒字か赤字かを判定できます。
食品ECでROASの計算に送料を含めるべきですか?
含めるべきです。とくに冷凍・冷蔵商品はクール便料金が売価に比例せず固定費として乗るため、送料を除いた粗利率で計算すると損益分岐ROASを大幅に低く見積もることになります。同じ商品で基準が4倍近く変わるケースもあります。
ROASが急に下がりました。まず何をすべきですか?
入札や予算を触る前に、CTRとCVRのどちらが落ちたかを切り分けてください。CTRが落ちていれば第一画像と商品名、CVRが落ちていれば商品ページ・レビュー・価格が原因です。どちらも標準内であれば、競合の参入や在庫切れ、季節要因を確認します。
損益分岐を下回るROASで広告を回し続けてもよいですか?
リピート率が実測できている商材に限り、初回獲得コストとして許容する設計はあり得ます。ただし「いつか回収できるはず」という想定で続けるのは危険です。2回目購入率とLTVを実データで確認し、何ヶ月で回収するかを決めてから実行してください。
モールごとに目標ROASを変える必要はありますか?
必要です。モールによって手数料率・ポイント原資・送料条件・クーポン負担が異なり、結果として送料込み粗利率が変わります。粗利率が変われば損益分岐ROASも変わるため、モール別・商品別に基準を持つのが正しい運用です。
まとめ
- ROASは売上ベースの指標で、高くても黒字とは限らない。
- 目安は業界平均ではなく、損益分岐ROAS = 1 ÷ 粗利率 で自社ごとに出す。
- 食品ECでは送料・クール便・手数料まで引いた粗利率を使う。ここを間違えると基準が数倍ずれる。
- ROASが落ちたら、まずCTRとCVRのどちらが原因かを切り分ける。
- 広告は加速装置。商品ページと素材が整っていない状態で予算を増やしても効率は上がらない。
モール横断で広告の採算基準を整理し直したい場合は、EC運営代行・コンサルティングで商品ごとの損益分岐から設計しています。Amazonの広告運用についてはAmazon支援サービスもご覧ください。支援範囲によって内容が変わるため、費用は個別見積りとなります。
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出典
- CrescLab「ROASとは?計算方法・目安・ROIとの違い」(損益分岐点ROASの算出式と粗利率別の水準)
- Salesforce「ROASとは?計算方法やROI・CPAとの違いをわかりやすく解説」
- Amazon「出品にかかる費用」(食品&飲料の販売手数料/2026年9月確認)
- 経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)
※CTR・CVRの水準および粗利率の目標ラインは、当社が運用で確認している社内基準です(2026年9月時点)。公的統計ではないため、必ず自社の実測値で検証してください。広告メニューの仕様・料率は各プラットフォームの公式情報をご確認ください。





