食品ECでは、セール・クーポン・まとめ買いを組み合わせて割引を見せる場面が日常的にあります。その中で最も事故になりやすいのが、「もとの価格」と「いまの価格」を並べて見せる表示、いわゆる二重価格表示です。
この記事では、消費者庁の価格表示ガイドラインをもとに、過去価格・将来価格・希望小売価格それぞれの線引きと、食品ECの現場で実際に迷いやすいパターンを整理します。
結論
二重価格表示は禁止されていません。争点になるのは比較対照価格が「実際に売っていた価格」かどうかの一点です。
過去価格を使う場合の目安は、セール開始からさかのぼる8週間のうち、その価格で売っていた期間が過半を占めているか。通算2週間未満、または最後にその価格で売った日から2週間以上経っている場合は使えません。この1本の基準を運用に落とせば、大半の判断は機械的に処理できます。
二重価格表示とは何を指すのか
二重価格表示とは、販売価格に併記して別の価格(比較対照価格)を示す表示です。「4,980円→2,490円」「通常価格6,000円 当店3,000円」などが典型です。
消費者庁の「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(価格表示ガイドライン)では、不当表示に該当するおそれがある場合として次の2つが挙げられています。
- 同一ではない商品の価格を比較対照価格に用いて表示を行う場合
- 比較対照価格に用いる価格について、実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合
つまり論点は「割引率が大きいかどうか」ではありません。並べた2つの価格が、同じ商品の、実際の価格かどうかです。ここを外すと、景品表示法上の有利誤認表示として措置命令や課徴金納付命令の対象になり得ます。
過去の販売価格を使う場合:8週間ルールの中身
最も多い設計は、値下げ前の自店価格を比較対照価格にするパターンです。この場合、その価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たる必要があります。ガイドラインが示す判断の枠組みは次のとおりです。
| 項目 | ガイドラインの考え方 | 実務での読み替え |
|---|---|---|
| 検討する期間 | セール開始時点からさかのぼる8週間について検討する。商品が販売されていた期間が8週間未満の場合は、当該期間について検討する | セール開始日から8週間前まで、価格の履歴を残しておく |
| 過半要件 | その価格で販売されていた期間が、当該商品が販売されていた期間の過半を占めているとき | 8週間のうち4週間超は、その価格で売っていた実績が必要 |
| 除外1 | その価格で販売されていた期間が通算して2週間未満の場合 | 2週間未満しか出していない価格は使えない |
| 除外2 | その価格で販売された最後の日から2週間以上経過している場合 | 古すぎる価格は使えない。間に別価格のセールを長く挟んだ場合は要注意 |
食品ECで見落とされやすいのは除外2です。イベントごとに値付けを動かす運用では、「通常価格」と呼んでいる価格が直近2週間以上出ていないことが起こります。セールを連続で回している店舗ほど、この条件から外れやすくなります。
価格履歴は、判断の根拠であると同時に、説明を求められたときの唯一の材料になります。モールの管理画面の履歴だけに頼らず、商品ごとに「いつからいつまでいくらで売ったか」を自社側にも残しておくことをおすすめします。
将来価格・希望小売価格・他社価格を使う場合
比較対照価格には、過去の自店価格以外も使えます。ただしそれぞれに条件があります。
| 比較対照価格の種類 | 使える条件 | 避けるべき例 |
|---|---|---|
| 将来の販売価格 (例:セール後に上がる予定の価格) |
表示された価格で販売することが確かな場合。需給状況等が変化しても表示価格で販売することとしている場合など | セール終了後に実際にはその価格で売らない、あるいはごく短期間だけ出す設計 |
| メーカー希望小売価格 | 製造業者等により設定され、あらかじめカタログ等により公表されている価格 | 公表されているとはいえない価格を「希望小売価格」と称して使う |
| 競争事業者の販売価格・市価 | 競争関係にある相当数の事業者の実際の販売価格を正確に調査していること | 数店舗を見ただけ、あるいは調査せずに「他店平均」と表示する |
将来価格については、ガイドラインは「販売することが確かな場合以外において、将来の販売価格を用いた二重価格表示を行うことは、適切でないと考えられる」としています。「セール後は6,000円に戻ります」と書くなら、実際に戻して売り続ける前提が必要ということです。
食品ECで事故になりやすい4パターン
ここからは、当社が運用の中で繰り返し止めている設計です(2026年9月時点の社内運用ルール)。いずれも法令解釈そのものではなく、上のガイドラインから逆算した予防措置として運用しています。
1. 出店直後に定価をつり上げ、そのまま半額表示にする
新規出店時に「割引率を大きく見せたい」という理由で起こりがちな設計です。その定価で売った実績がないため、比較対照価格として成立しません。割引の訴求を強めたい場合は、価格の見せ方ではなくクーポンや特典の設計で作ります。
2. セール開始と同時に値上げした価格を「通常価格」と呼ぶ
直前に上げた価格は、過半要件も2週間要件も満たしません。値上げ自体は自由ですが、値上げ後の価格を比較対照価格に使えるようになるまでには時間が必要だと理解して運用します。
3. 期間をあいまいにした「期間限定」「今だけ」
実施期間と表示が一致しない、あるいは常時掲出されている期間訴求は、あいまいな表示と受け取られる余地があります。当社では比較対照価格の表記を「◯◯円→◯◯円」の形に絞り、商品名や画像内に期間の断定表現を入れない運用にしています。
4. クーポンとセールの割引を重ねて、表示上の割引率だけが膨らむ
モールのクーポンは定価を基準に計算される仕様のものがあり、値下げ済み価格にさらに適用されると、表示と実際の着地価格の関係が分かりにくくなります。割引の見せ方としてどちらを使うかは、TikTok Shopの価格設計の記事で計算の仕組みを整理しています。
公開前チェックリスト
- 比較対照価格は、同一商品の実際の価格か(容量・セット内容が違う商品の価格を並べていないか)
- 過去価格の場合、セール開始から8週間さかのぼって過半の期間その価格で売っていたか
- その価格での販売期間は通算2週間以上あるか
- 最後にその価格で売った日から2週間以上経っていないか
- 将来価格を使う場合、セール後に実際にその価格で売り続ける計画があるか
- 「希望小売価格」と書く場合、メーカーが公表している価格か
- 期間表示は、実際の実施期間と一致しているか
- 価格履歴を、商品単位で自社側に保存しているか
まとめ
二重価格表示の判断は、感覚ではなく期間の計算で処理できます。8週間・過半・2週間の3つの数字を運用ルールに落とし込み、価格履歴を残すこと。これだけで、セールを回す頻度が高い店舗でも判断のぶれは大きく減ります。
逆に言えば、割引率を大きく見せるために価格の履歴を作りにいく設計は、どの時点かで説明ができなくなります。訴求を強めたいときは、比較対照価格ではなくオファーの中身で作るのが結果的に早い、というのが当社の立場です。
価格設計とプロモーション設計をまとめて見直したい場合は、TikTok Shop運用支援やEC運営代行もあわせてご覧ください。
よくある質問
二重価格表示は禁止されているのですか?
禁止されていません。二重価格表示そのものは適法で、実務では広く使われています。問題になるのは、比較対照価格として使う価格が実際と異なる場合や、いつの時点のどのような価格なのかがあいまいな場合です。消費者庁の価格表示ガイドラインは、比較対照価格の正確性を軸に判断の考え方を示しています。
「8週間ルール」とは何ですか?
過去の販売価格を比較対照価格に使うとき、その価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるかを判断する目安です。消費者庁の価格表示ガイドラインでは、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討し、その価格で販売していた期間が販売期間の過半を占めているかで判断するとされています。ただし通算2週間未満の場合、または最後にその価格で販売した日から2週間以上経過している場合は該当しません。
販売開始から8週間経っていない新商品では、二重価格表示はできないのですか?
ガイドラインでは、商品が販売されていた期間が8週間未満の場合はその期間について検討するとされています。したがって販売期間が短くても判断は可能ですが、通算2週間未満しかその価格で売っていない場合は「最近相当期間」に当たらないため、過去価格を使った二重価格表示は避けるのが安全です。
出店直後に定価を高く設定して、すぐ半額表示にするのは問題ですか?
問題になり得ます。実際にはその定価で売っていない、あるいはごく短期間しか売っていない価格を比較対照価格に使うことになるためです。当社では、出店後に定価をつり上げてから半額化する設計は行わない運用にしています。割引の見せ方を強めたい場合は、クーポンや新規向けの特典など別の手段で設計します。
「通常価格」「期間限定」といった表記は使ってよいですか?
使う場合は根拠が必要です。「通常価格」と書くのであれば、その価格が最近相当期間にわたって実際に販売されていた価格である必要があります。期間の表示も、実際の実施期間と一致していなければあいまいな表示と受け取られる余地があります。当社では比較対照価格の表記を「◯◯円→◯◯円」の形に絞り、期間の断定表現を商品名や画像に入れない運用にしています。
メーカー希望小売価格との比較はできますか?
製造業者等により設定され、あらかじめカタログ等で公表されている価格であれば、比較対照価格として使えます。逆に、公表されているとはいえない価格を「希望小売価格」と称して比較に用いる場合は、不当表示に該当するおそれがあるとされています。自社で設定した価格を希望小売価格と呼ぶことはできません。
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出典
本記事のうち「事故になりやすい4パターン」および公開前チェックリストは、当社が運用で採用している予防的な社内ルール(2026年9月時点)であり、法令解釈そのものではありません。個別の表示が景品表示法上問題となるかは事案ごとの判断となるため、最終的な判断は消費者庁の公表資料および専門家にご確認ください。モールごとの価格表示ルールも別途定められているため、各モールの公式なガイドラインも必ずご確認ください。





