インフルエンサーに商品を渡して投稿してもらう。TikTok Shopのアフィリエイトで成果報酬を設定する。食品ECではごく日常的な施策ですが、この2つはいずれも景品表示法のステルスマーケティング規制(ステマ規制)の射程に入ります。
そして重要なのは、違反を問われるのが投稿したクリエイターではなく、依頼した事業者の側だという点です。「クリエイターがPRと書き忘れた」は、事業者にとって言い訳になりません。
この記事では、消費者庁が公表している告示・運用基準・Q&Aをもとに、食品ECの現場で判断に迷いやすいところだけを整理します。
先にお断り:本記事は2026年9月時点で公表されている消費者庁の資料に基づく整理です。個別の案件が違反に当たるかどうかは事実関係によって変わります。判断に迷う場合は、記事末尾の出典にある一次資料と、必要に応じて専門家の確認をお願いします。
結論
ステマ規制で責任を負うのは広告主(商品・サービスを供給する事業者)だけです。インフルエンサーやアフィリエイターは規制対象ではありません。だからこそ、表記を本人任せにすると事業者にリスクが集中します。
判断の分かれ目は「対価関係があるか」と「表示内容に関与したか」の2点です。そして表記は、投稿を見た人が最初に目にする場所で、投稿の一部として行う必要があります。返信ツリーに書く、動画の冒頭だけに出す、といった運用は運用基準上は不十分とされています。
ステマ規制の中身:告示・施行日・条文
ステマ規制は、景品表示法第5条第3号に基づく告示として定められています。
| 告示名 | 一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示(令和5年内閣府告示第19号) |
|---|---|
| 根拠条文 | 景品表示法 第5条第3号 |
| 施行日 | 2023年(令和5年)10月1日 |
| 規制対象 | 自己の供給する商品・役務の取引に関する表示について、その内容の決定に関与した事業者 |
| 措置 | 措置命令(誤認の排除・再発防止措置等)。課徴金は原則として対象外だが、優良誤認表示・有利誤認表示を併せて含む場合は対象になり得る |
つまりステマ規制は「隠れた広告そのもの」を禁じているのであって、表示された内容が真実かどうかとは別の軸です。内容が正しくても、広告であることが分からなければ違反になり得ます。
責任を負うのは広告主。クリエイターは規制対象ではない
消費者庁のQ&Aでは、インフルエンサーやアフィリエイターは、広告主と共同して商品を供給しているような場合を除き、規制の対象外とされています。
| 立場 | ステマ規制の対象 | 実務上のリスク |
|---|---|---|
| 広告主(食品メーカー・ショップ運営者) | 対象 | 措置命令、社名公表、モール側の販売停止 |
| インフルエンサー・クリエイター | 原則対象外 | 法的責任は負わないが、炎上や契約解除のリスクは残る |
| 運用代行会社・MCN | 原則対象外(供給主体でない限り) | 広告主から見た管理体制の一部として問われる |
この構造が実務上いちばん効いてきます。クリエイターに罰則がない以上、PR表記を守らせる仕組みは発注側が用意するしかありません。1本ごとの善意に依存した運用は、母数が増えるほど必ずどこかで漏れます。
食品カテゴリで60店舗以上の運用に関わる中でも、投稿本数が数百本規模になった局面で表記の抜けが出やすくなる、という傾向は当社が運用で確認している挙動です(2026年9月時点)。【推測】本数が増えるほど1本あたりの確認密度が下がるためだと考えられますが、これは当社の運用実感であり、公的に検証された数値ではありません。
「事業者の表示」に当たるかどうかの分かれ目
消費者庁のQ&Aで示されている考え方を、食品ECでよくある発注パターンに当てはめると次のようになります。
| 発注パターン | 事業者の表示に当たるか | 理由 |
|---|---|---|
| 商品を無償提供し、投稿内容に一切指示をしない | 通常は該当しない | 表示内容の決定に関与していないと評価され得る |
| 商品を無償提供し、訴求ポイントや構成を指定する | 該当し得る | 表示内容の決定に関与している |
| 個別に報酬を支払って投稿を依頼する | 該当する可能性が高い | 対価関係があり、自主的な意思による表示と認められにくい |
| アフィリエイト(成果報酬)で紹介してもらう | 該当し得る | 成果に応じた対価が発生している |
| 購入者が自費で買って自発的に投稿する | 該当しない | 対価関係も関与もない |
誤解されやすい点:「無償提供だけなら安全」ではありません。Q&Aでも、やり取りの内容や事業者とインフルエンサーの関係性によっては該当する可能性があるとされています。商品を送ったうえで訴求軸を伝えている時点で、実質的には関与しているケースが多くあります。
表記は「どこに・どう書くか」で評価が変わる
運用基準では、一般消費者が事業者の表示であることを明瞭に判別できる方法として、次のような例が挙げられています。
- 「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった用語を記載する
- 「A社から商品の提供を受けて投稿している」といった文章で明示する
- 表示内容全体から、事業者の表示であることが明らかに分かる
逆に、次のような形は不十分とされています。
- 投稿本文ではなく、返信ツリー側に表記する
- 動画の冒頭数秒だけ表示し、その後は消してしまう
- 大量のハッシュタグの末尾に紛れさせ、実質的に読み取れない状態にする
【推測】ショート動画では途中から視聴が始まる導線も存在するため、冒頭のみの表示だと「見た人が判別できない」状態が生じやすいと考えられます。この点は告示の条文に明記されているわけではないため、実務では尺の全編にわたって表記を残すのが安全側の運用になります。
なお、TikTokやInstagramが用意しているタイアップ投稿ラベルのような機能を使う場合も、それだけで足りるとは限りません。プラットフォームの機能は仕様変更があり得るため、本文側にも文言を置く二重化を前提に設計しておくと運用が崩れにくくなります。
措置命令は実際に出ている
ステマ規制は「そのうち運用が始まる規制」ではなく、すでに執行されています。消費者庁は2025年3月25日、ロート製薬株式会社に対し、同社が供給するサプリメント「ロートV5アクトビジョンa」に係る表示について、景品表示法第5条第3号(ステルスマーケティング告示)に該当するとして措置命令を行っています。
食品・健康食品は、もともと優良誤認表示のリスクが高いカテゴリです。ステマ規制単体では原則として課徴金の対象になりませんが、「PR表記がなく、かつ効果をうたっている」状態になると、優良誤認表示として課徴金の対象になり得ます。ここが食品事業者にとってもっとも避けたい重なり方です。
食品ECで事故りやすい3つの場面
1. アフィリエイト経由の投稿
成果報酬が発生している以上、対価関係は明確です。TikTok Shopのアフィリエイト(TAP)のように、クリエイターが自分の判断で商品を選んで紹介する仕組みであっても、報酬が発生する構造そのものは変わりません。募集の段階で表記ルールを条件として提示しておく必要があります。
仕組みそのものはTikTok Shopアフィリエイト(TAP)の始め方で解説しています。
2. 健康・機能性に寄った訴求
食品で「疲れにくくなる」「痩せる」「血圧が下がる」といった表現に踏み込むと、景品表示法の優良誤認だけでなく医薬品医療機器等法(薬機法)の問題にもなります。クリエイターは善意で体験談として語っているだけでも、依頼した事業者の表示として評価されます。
3. 投稿の二次利用で表記が外れる
クリエイター投稿を広告素材として配信し直すとき、切り出しや尺の調整の過程で表記が落ちることがあります。広告として配信する以上そもそも広告であることは明らかとも言えますが、元の投稿が「個人の感想」に見える形のまま配信されると、判別が困難な状態が再生産されます。二次利用時は必ず表記の有無を再確認する工程を挟んでください。
運用に落とし込むチェックリスト
| タイミング | 確認すること |
|---|---|
| 発注前 | PR表記の文言・位置・表示継続時間を契約書またはブリーフに明記したか/表記がない投稿は報酬対象外とする条件を伝えたか |
| 投稿前 | 本文の冒頭側に表記があるか/動画内テロップが全編にわたって残っているか/ハッシュタグの中に埋没していないか |
| 投稿後 | 実際の投稿画面をスクリーンショットで保全したか/表記漏れを見つけた場合の修正依頼フローが決まっているか |
| 二次利用時 | 広告転用・切り出し編集後も表記が残っているか |
| 体制 | 景表法・薬機法のNGラインをクリエイターに事前共有しているか/確認担当を1人に依存していないか |
クリエイターに求めるスキルとして、当社では食品表示やアレルギー、冷凍・冷蔵物流の基礎に加えて、景表法・薬機法のNGラインを共通知識として持ってもらう設計を取っています。表記は最後のチェックで拾うものではなく、最初に共有しておくものという考え方です。
実務で事故るのは「PR表記漏れ」より「煽りの積み重ね」
ここまでは表記の話でしたが、現場でより頻繁に問題になるのは表現のほうです。当社がTikTok Shopの日本市場・食品飲料カテゴリーで売上上位50動画を分析したところ(過去30日・総売上6,892万円/総視聴8,757万回、2026年9月時点)、次のような使用率でした。
| 要素 | 上位50動画での使用率 |
|---|---|
| 緊急性ワード(何らかの形で使用) | 100% |
| 「今だけ」 | 96% |
| 「数量限定」 | 90% |
| 「クーポンが消える前に」 | 84% |
| 「いつ終わるかわからない」 | 76% |
| 価格アンカリング(元値と現在価格の並記) | 100% |
| 希少性演出(売り切れ続出・在庫が毎日変わる等) | 97% |
つまり、売れている動画のほぼ全てが、景品表示法の有利誤認表示や二重価格表示と隣り合わせの表現を使っています。PR表記だけ整えても、この層で事故れば措置命令の対象は同じく事業者です。しかもステマ規制と違い、有利誤認表示は課徴金の対象になります。
ここが本質:ステマ規制は「広告だと分かるようにする」義務、有利誤認表示の規制は「書いてある取引条件が本当か」の問題です。前者を満たしても後者は残ります。実務ではこの2つをセットで点検してください。
当社が運用で使っている事故防止チェック
食品カテゴリで60店舗以上を運用する中で、実際に運用ルールとして運用しているチェック項目です(2026年9月時点)。法令の条文そのものではなく、条文から逆算した現場向けの運用基準としてお読みください。
| 項目 | 基準 | なぜ |
|---|---|---|
| 二重価格の書き方 | 「○○円→○○円」の表記のみ。「期間限定」の文字は画像・商品名に入れない | 「期間限定」と書くと、実際の販売期間との整合が問われる。表記した以上は事実である必要がある |
| 出店直後の値付け | 出店後に定価をつり上げてから半額化しない | 比較対照価格としての実績がない価格を元値に使うと、有利誤認表示に当たり得る |
| 「残りわずか」の連呼 | 在庫数と矛盾しないこと。制限は事実ベースで設定する | 在庫が潤沢なのに希少性を演出すると、表示と実態が食い違う |
| 最上級表現 | 「日本一」「No.1」は調査根拠とその出典が示せる場合のみ | No.1表示は消費者庁が重点的に見ている類型 |
| 他社ブランド商品の値引き表現 | ブランド側の事前承認を取ってから出す | 法令以前に、ブランド毀損と契約違反のリスクがある |
| 購入制限の設定 | 「お一人様3点まで」等を使う場合、システム側でも実際に制限をかける | 表示だけの制限は実態と乖離する |
【推測】「期間限定」の文字を避けるという運用は、条文に明記された禁止事項ではなく、当社が事故を減らすために採っている安全側のルールです。実際の判断は表示全体で行われるため、より緩い運用でも問題ないケースはあり得ます。
報酬率の変更タイミングは、表記義務の期間にも効く
TikTok Shopのアフィリエイト報酬率には、引き上げは既存クリエイターにも即時に遡及して適用され、引き下げは既存クリエイターに30日間は適用されないという非対称があります。
これは原価計算の話として語られることが多いのですが、ステマ規制の観点でも意味があります。報酬を下げたつもりでも30日間は対価関係が続いているため、その期間の投稿は引き続き「事業者の表示」に当たり得ます。「もう案件は終わったので表記は不要」という整理は、実態と合わない場合があります。
報酬率の設計そのものはTikTok Shopアフィリエイト(TAP)の始め方で解説しています。
よくある質問
ステマ規制でインフルエンサーは罰せられますか?
いいえ。景品表示法のステマ規制で責任を負うのは、商品・サービスを供給する事業者(広告主)です。インフルエンサーやアフィリエイターは、広告主と共同して商品を供給しているような場合を除き、規制の対象外とされています。ただし法的責任がないことと、炎上や契約解除のリスクがないことは別です。
商品を無償で提供しただけならPR表記は不要ですか?
一概には言えません。消費者庁のQ&Aでは、試供品を配布しただけで表示内容に指示をしていない場合は通常「事業者の表示」に当たらないとされる一方、やり取りの内容や事業者との関係性によっては該当する可能性があるとされています。訴求ポイントや構成を伝えている場合は、表記を入れる前提で設計するのが安全です。
「#PR」をハッシュタグの中に入れておけば足りますか?
置き方によります。運用基準では、一般消費者が明瞭に判別できることが求められており、大量のハッシュタグの末尾に紛れて実質的に読み取れない状態は不十分と評価され得ます。本文の冒頭側に置く、動画内に常時表示する、といった形を推奨します。
動画の冒頭だけPRと表示すれば大丈夫ですか?
運用基準では、動画の冒頭のみの表示は不十分とされています。ショート動画は途中から視聴が始まる場合もあるため、尺の全編にわたって表記が残る設計にしてください。
ステマ規制に違反すると課徴金は課されますか?
ステマ規制(景品表示法第5条第3号)単体では、原則として課徴金の対象外です。措置命令の対象となります。ただし、優良誤認表示や有利誤認表示を併せて含む場合は課徴金の対象になり得ます。食品・健康食品では効果効能に踏み込んだ表現と重なりやすいため、特に注意が必要です。
TikTok Shopのアフィリエイト投稿にもPR表記は必要ですか?
成果報酬が発生する以上、対価関係があると評価される可能性が高いため、表記を前提に設計してください。クリエイターが自分で商品を選ぶ仕組みであっても、報酬構造そのものは変わりません。募集時点で表記を条件として明示することをおすすめします。
PR表記さえ入れれば景品表示法は大丈夫ですか?
いいえ。ステマ規制は「広告だと判別できるようにする」義務で、表示内容が正しいかどうかは別の問題です。元値の根拠がない二重価格、在庫と矛盾する「残りわずか」、根拠のない最上級表現などは、PR表記があっても有利誤認表示・優良誤認表示として問題になり得ます。こちらは課徴金の対象にもなります。
アフィリエイトの報酬率を下げたら、PR表記はいつまで必要ですか?
TikTok Shopでは報酬率の引き下げが既存クリエイターに30日間適用されない仕様があるため、下げた直後でも対価関係が続いている期間があります。その間の投稿は引き続き「事業者の表示」に当たり得るので、表記を外さない前提で運用してください。
まとめ
- ステマ規制で責任を負うのは広告主だけ。クリエイターに罰則がないからこそ、表記を守らせる仕組みは発注側が用意する必要がある
- 判断の分かれ目は「対価関係があるか」と「表示内容に関与したか」の2点
- 表記は投稿本文の見える位置に、動画なら全編にわたって。返信ツリーや冒頭のみは不十分
- 措置命令はすでに出ている。食品・健康食品では優良誤認と重なると課徴金の対象になり得る
- 発注前・投稿前・投稿後・二次利用時の4点で確認工程を設計する
- PR表記と同じくらい、二重価格・希少性演出の事実性を点検する。こちらは課徴金の対象になる
クリエイター施策を含むTikTok Shopの運用設計についてはTikTok Shop運用支援、モール全体の運用体制についてはEC運用代行をご覧ください。
関連記事
- TikTok Shopアフィリエイト(TAP)の始め方|報酬率の決め方と食品のサンプル戦略
- TikTok Shopは安全?事業者が狙われる4つの手口と見分け方
- TikTok Shopの価格設計|クーポンは「定価ベース」で引かれる
- TikTok Shop運用代行の選び方|費用相場と、食品事業者が追加で確認すべき5項目
出典
- 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。」
- 消費者庁「ステルスマーケティングに関するQ&A」
- 消費者庁「景品表示法とステルスマーケティング」(PDF)
- 消費者庁「ロート製薬株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(2025年3月25日)
本記事のうち、当社の運用実感に基づく記述はその旨を明記しています。制度の運用は今後変更される可能性があるため、実務判断の際は必ず消費者庁の最新の公表資料をご確認ください。




